俺と彼が言葉を交わした数年後キャンプ場は閉鎖された
2017/04/26
川の両岸が、別々のキャンプ場になっている場所だ。
昨年と同じ男がいた。
たまに行く山で、毎回顔を合わせる人物というのは
少ないが、確かに居る。
ごく普通の会社員であれば、週末と連休くらいしか
山へは行かれないのだ。
スケジュールが重なったとしても、不思議はない。
互いに、昨年見た顔だとすぐ気付いた。
相手の姿を見れば、山歩きが目的ではないとすぐ分かる。
このキャンプ場が目的地だという格好だ。
彼は子供の頃から、この時期のキャンプを続けていると
俺に話した。
毎年、対岸のキャンプ場に来る女の子が目当てだと言い、
頭をかいて笑った。
10年以上にもなるらしい。
今夜は来てくれますよ。
年に一度だけ会うことを続ける二人。
わずかな言葉を交わし、別れることを繰り返している。
ただ、と彼は言葉を濁す。
彼女、いつまでも子供のままなんです。
3回目に会った時から、ずっと同じなんです。
知ってるんです。
一気に言い、俺を見た。
邪魔しないで下さいね。
そう言って、彼は顔を対岸へ向けた。
きっと、彼の初恋なのだろう。
彼は今年も、子供のままの彼女と会うのだろうか。
俺と彼が言葉を交わした数年後、あのキャンプ場は、閉鎖された。