山にまつわる怖い・不思議な話(山怖まとめ)

山の怖い話、不思議な話をまとめています。

雪を見る度に思い出す事

      2016/12/26

491: N.W ◆0r0atwEaSo 2006/01/23(月) 05:49:12 ID:KbI7E9eb0
人から聞いた話

雪を見る度に思い出す事がある。
それは、もう何十年も前の事───

結納の直前、婚約者が別人と心中を図った。
その騒ぎの最中、仕事で大きなミスをやらかし、会社をクビになった。
心労で祖母が寝込んだ。
家中が何だかトゲトゲしくなり、会話さえも凍りがちになった。
自分の所為だな。
何もかも嫌になって、死んでしまおうと思った。
どうせなら、真っ白な雪の中で、永遠の眠りに就こう。
そう思って、北国の温泉場に出かけた。
そこは、南国生まれの自分には想像も付かない程、たくさんの雪に恵まれていた。
こんな中で死ねるなら、最高だ。口笛を吹きたい気分だった。
最後の贅沢とばかり、旅館で美味しい料理と良い風呂を堪能した。
もう、思い残す事は無かった。
散歩に行くようなそぶりで外へ出、山の方へ向かってぶらぶら歩き始めた。
気分が高揚している所為か、ちっとも寒くも辛くも無かった。
しばらく歩いて行くと、明かりの灯った家が1軒ぽつんとあり、その前に白いこんもりとした
“かまくら”が作られていた。
雑誌でしか見た事がなかったから、物珍しく思って近づいて行くと、ロウソクの仄明かりと一緒に、
温もりと良い匂いが漏れて来る。
ひょいと中を覗き込むと、火鉢の前に座る、赤い綿入れの半纏を着たオカッパ頭の少女と目が合った。
勧められるままに上がり込み、暖かい甘酒と香ばしい焼き餅をご馳走になった。
死ぬ前に、こんな好い目に遇えるなんて、幸せ者だな。
そんな風に思った時だった。

492: N.W ◆0r0atwEaSo 2006/01/23(月) 05:54:27 ID:KbI7E9eb0
少女が無邪気な笑顔でこう言った。
「おまえ、死ぬ気だろ」
はっと思った瞬間、かまくらが崩れた。
「わっ!!」
かろうじて胸から上は出ているものの、胡坐を組んだ足は解く事も出来ないぐらい、しっかり
雪に埋もれている。その冷たさは、直前までの死への思いを翻させるに十分だった。
ハハハ、ハハハハハ
頭上から、笑い声と共に、梢の雪がどさどさ落ちて来た。
仰げば、さっきの少女が樹上から物凄い顔をして、自分を見下ろしている。
先程の優しげな様子は微塵も無い。
「死にたかったんだろう、雪に埋もれて」
寒さと恐さで、歯の根が合わなかった。
ハハハ、ハハハハハ…少女の哄笑が響く。
そして、彼女が枝を揺すると、また新たな雪が自分の周りに落ちて来た。
嫌だ、助けてくれと叫びたかったが、情けない悲鳴しか上げられない。
少女は、恐い眼を自分に据えたまま、冷たく言い放った。
「オレはなあ、7つで死んだぞ。死にたくなかったぞ。おまえはなあ、死にたいんだろ?
アア、死ね。死ね、死ね、死ね。オレがおまえになって生きてやる。だから、死ね!」
不意にその姿が自分そっくりになり、首がにゅうっと伸びた。
「なあ?」
目の前で、真っ赤な眼をした同じ顔が、にやりと笑いかけた…

気が付いた時、小さな地蔵の前でしゃがんでいる自分がいた。
辺りにはただ木立があるばかりで、家に見紛う小屋も無い。
恐怖心が一気に沸き起こり、無我夢中でその場から走って逃げ出した。

───あの時の雪の冷たさは、今でも忘れられない。

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