山中に切り開かれた団地がパタッと売れなくなった
2016/12/25
彼の家の近くには、割と大きな団地がある。
山中に切り開かれたその団地はまだ新しく、販売された当初は飛ぶように
売れたのだそうだ。
しかし、ある時より変な噂が流れ始め、パタッと売れなくなったという。
時々、死んだ者が還ってくるというのだ。
夜、ふと気がつくと誰か庭に立っている。
所在無げにゆらりふらりと身体を揺らしている。
窓越しに顔を確認すると、何年か前に死んだ筈の家族なのだと。
ぞっとするような無表情なので、とても外へ確認に出る気になれないそうだ。
彼も一度、月光の下、自宅の庭に立つ人影を認めたことがあるという。
やはり庭に下りる勇気は持てなかったと話した。
「でも親父だったよ。あの団地に越してから亡くなったんだ」
夜還ってくる者は、団地の中で死んだ者に限られているという噂だった。
現在、彼の家族はその団地から引っ越している。
「でも時々思うんだ。親父が、まだあの家に居るんじゃないかって。
中に入れず、庭で立ち尽くしているんじゃないかって」
何となく寂しそうに彼は言っていた。