山にまつわる怖い・不思議な話(山怖まとめ)

山の怖い話、不思議な話をまとめています。

俺自身は自分自身と会話をしていたのだと教えられた

      2017/04/24

920: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/02/25(土) 08:59:37 ID:IBxb7NFB0
雨に降られ、雲に撒かれ、周辺の様子が分からず、地図も読めない。
磁石を当てて方角を確かめても、地図上のどの一点に居るのかが
分からない以上、これ以上、動くべきではない。
格好つけてそんな言い方をしたが、俺たち全員が疲れきっており、
べきでないとか、べからずだとか、そんなことを言っていられる
状況ではなかった。

それ以上、どこへも動けなかった。
かじかむ手、全身、どこという訳でもない鈍い痛みに覆われ、
胴には砂でも詰まっているようだ。
垂れた鼻水、それを拭おうとして、乱暴に顔をこね回し、結果、
顔中が鼻水だらけになったが、それをどうとも思えなかった。

「どうしたって?」
誰かの声が聞こえた。
俺に向けられた言葉だと直感した。
聞き返すと、誰かに肩を叩かれた。
肩を叩いたのは、仲間の一人だ。
「どうしたって、何が?」

俺に聞こえた声というのは、俺自身が発していた。
その友人は、俺に呼ばれたと思い返事をしたが、俺自身は
自分自身と会話をしていたのだと教えられた。

おめぇ、しっかりしろよ
うるせぇなあ、今に手前だってこうなるんだ
これは友人と俺との会話。

これが幻聴か、と思ったが、さっきの声は、すぐ近くに居る
誰かの声だというのが、俺にとっての現実的感覚だった。

921: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/02/25(土) 09:01:16 ID:IBxb7NFB0
ようやく、テントが張れた。
二人用の小さなテントに、やたら汚い男ばかり4人で
潜り込んだ。
無論、テントの固定などしていない。
中に四人も居れば、固定など必要ない。
実際のところ、テントを固定する手間など、その時の俺たちには
かけられるものではなかった。

「おい、バスが出ちまうぞ」
これは俺ではない。
満員電車のようなテントから這い出そうとする奴がいる。
俺たちを押しのけ、かきわけ、出て行こうとする。
皆で押さえ込み、強く揺すぶった。
「あ・・そうか」
とだけ、そいつは言った。

その次は、先ほど俺の肩を叩いた奴。
家まで行って、食い物をもらって来ると言い出したのだ。
俺には、数分おきに呼びかける声が聞こえ続けている。

意識がまともなのは、ひとりだけだった。
そいつだって、どこまで持つのか、分からない。

医薬品を取り出し、軟膏を手の甲に塗っているのも、
今居るこの場ではなく、意識世界で起こった何事かへの
対処行動に違いない。

922: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/02/25(土) 09:01:59 ID:IBxb7NFB0
バスに乗ると言い出した友人は、その後もテントの外へ
出ようとしていたが、終電だとか、タクシーを呼んだとか
そんなことを言い続けていた。
家へ食い物を取りに行くと言っていた奴は、食い物に
執着し続け、野草だの、魚だのを手に入れるための
アイディアを出し続け、それらを実践しようと言い続けた。

俺自身、自分が何をしたのか、記憶は曖昧だ。
泥酔しているような脳のしびれと、ひたすら重い身体。
耳たぶさえ重く、何度も引きちぎろうとしていた。

まともなひとりは、ついに朝まで正気を失わなかった。
周辺が明るくなる頃、疲労は相変わらずだったが、全員が
まともになり始めた。
地図で自分たちが居る一点を探し当て、先の見通しが立つと
疲労さえも俺たちの身体から出て行き始めた。

疲労ども、次は誰に取り付く気だろう。
本気でそう思い、苦笑した。

季節は、夏。
季節が冬ではなく夏であること、気温が本当に暖かいこと、
天気は目に見えるとおりの快晴であること。
何度も何度もそれを確かめ、ようやく安心し、全員、寝袋や
シートにくるまって、3時間ばかり寝てから下山した。

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出典:http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1134399217/