大きな岩を真横から見ると、その向こうには空だけがありまるで大絶壁のようだった
2017/06/10
その向こうには空だけがあり、まるで大絶壁のようだった。
ザイルを垂らし、腰のベルトに通してポーズを取り、
写真に収めようということになった。
きっと、名うてのクライマーのような写真になるだろう。
張ったザイルに身体を預け、ほんの1メートルも登れば、
四角く切り取られたカメラのファインダーの中は、
ヒマラヤかアルプスさながらだ。
俺がポーズを取り、友人がそれを撮影した。
次に俺が撮影し、友人がポーズを取る。
ベルトに通したザイルを引っ張り、固定されているのを
友人は確認した。
すでに習慣となった動きだ。
友人が笑いながら1メートルばかり登り、そこで表情を
引き締め、ザイルに体重を乗せた。
ファインダーの中、友人の姿は予想通り、とんでもない
大絶壁に挑むクライマーだ。
何枚か撮影し、友人から目を離してカメラをしまおうとした。
友人のうめき声。
落ちたな、とそれはすぐ分かった。
尻餅をつき、岩を見上げる友人は、ザイルを握っている。
落ちたからといって、どうこう言う高さではない。
「おかしいなあ」と友人は首をかしげる。
ベルトからザイルが外れていた。
確かに確認したはずだし、問題も無かったはずだ。
とはいえ、何事にもミスはあるものだと、その場では納得した。
山から帰り、フィルムを現像に出した。
馴染みの写真屋は、うまく現像できない写真が何枚かあったことを
俺に告げた。
ネガを広げ、二人で確認した。
現像できなかったのは、大岩での友人の写真。
友人は写っているが、ぴんと張ったザイルは写っていなかった。
ザイル無しでは絶対に不可能な姿勢で、友人は岩に貼り付いていた。