山にまつわる怖い・不思議な話(山怖まとめ)

山の怖い話、不思議な話をまとめています。

何本もの手が窓枠から突き出されていた

      2017/04/29

117: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/03/11(土) 08:45:27 ID:+3majM0y0
もともと、雪山は好きではない。
嫌いではないが、積極的に雪山を目指そうという気にはならないという
程度に、雪山は好きではない。
行き先が雪崩の多発地帯ともなれば、なおさらだ。
それでも、雪山は美しい。

ただの雪山歩きなら、決してそんな場所へは行かない。
その時はメンバーの一人に仕事上の都合があり、そのために企画された
雪山登山だった。
多少のあれこれがあり、結局、参加することにはなったが、腰まで
雪に潜り、足元の見えない斜面を歩く体験というのは、個人的には
あまり好ましいものではなかった。
地面は岩で、足首は安定せず、さんざん歩き、疲れ、振り返れば
進んだ距離はあまりに短かった。

谷を挟んだ反対側の斜面では、かつて、泡と呼ばれる大規模な雪崩があり
衝撃波で、冬季用の小屋が滞在者もろとも、ほとんど丸ごと吹き飛ばされ、
数百メートルも離れたところから残骸や遺体が発見されたことがある。
こちら側の斜面で、それほどの雪崩は発生していないが、泡だろうと
何だろうと、衝撃波で吹き飛ばされようと、雪に巻き込まれて谷底まで
押し流されようと、こんな場所で雪崩に遭えば死ぬ他ない。
幸い、ここ数日は雪が降っていないらしい。
そして、暴力的なまでの低温。
これなら雪崩の心配はないなどと言う奴が居ても、それを素直に
喜べるだろうか。
雪崩ではなく、疲労と低温による遭難だって数多い。

118: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/03/11(土) 08:46:30 ID:+3majM0y0
来た以上は進まねばならない。
二度と、こんな場所へ来るもんかと思った瞬間、衝撃波が背後から来た。
音は一瞬遅れた。
とっさに姿勢を低くし、最初に触れた地面の突起を握りしめたが、
衝撃波に弾かれて体勢が崩れただけのことだ。
自分の意思で伏せるほどの時間はなかった。

よせばいいのに、と自分で思いながら振り返ると、後方、反対側の斜面が
真っ白なガスにでも包まれているように見える。
無論、ガスではなく雪煙だ。
真っ白で柔らかそうな雪の塊は、斜面に留まることなく、大きく膨らみながら
速度を上げ、谷底目掛けて崩れ落ちた。
谷底からは粉々になった雪が吹き上がり、突き刺さるように殺到してきた。
鼓膜に、じかに雪の粒があたる音さえ聞こえた。
目を開けることなど、無論できない。

衝撃が行き過ぎ、荒っぽい落ち着きを谷が取り戻すと、こだまが谷を揺らした。
木霊とはよく言ったものだと、そんな時に妙なことを考えていた。
顔を上げると、こちら側の斜面の木々の枝からは雪が失われていた。

119: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/03/11(土) 08:49:09 ID:+3majM0y0
薄暗い森の中に窓枠があった。
角材で四角に組まれ、十字に区切られた窓枠に、ガラスはない。
ガラスはないが、手はあった。
何本もの手が、窓枠から突き出されていた。
木霊が消え残る中、無言で、マネキンのように硬直した手が伸べられている
その光景は、今にして思えば、芸術の一形態のようでもあった。
さらさらと木から雪が舞い落ち、それに気を取られた。
気付くと窓枠は消えていた。
窓枠のあった場所さえ、すでに分からない。

きっと、今の衝撃波で、こちらの斜面の雪がゆるんだはずだ。
全員、誰に言われるでもなく、それが雪崩の原因となることを知っていた。
窓枠についてあれこれ思い巡らす暇さえない。
慌しく手を合わせる俺を、パーティのメンバーが見つめていた。
「なあ、頼むよ」
聞き覚えのない声が耳元でしたが、何を頼まれたのか今でも分からない。
とにかく、雪崩の多発地帯になど、二度と行くものか。

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