小坊主どもの背後、招き入れようとするその先は薄暗い森があるだけ
2016/02/04
真ん丸の、真っ白な顔が、道の両側にずらりと並んでいる。
月見餅に目鼻を付けたような小坊主が、揃いの半纏を着て、
頭を振りたて振りたて、にぎやかに呼びかけてくる。
「ようこそ、お立ち寄りくださいませ」
「さあさあ、お待ちしておりました」
口々に、様々に声を上げ、手招きをする。
一人が提灯を手に、先導する。
「お代なんて、お安いもんです。ささ、こちらへどうぞ」
短い足を激しく動かし、上機嫌で振り返り、顔を見上げ、にこやかに
小走りで先導する。
小坊主どもの背後、招き入れようとするその先は薄暗い森があるだけだ。
とてものこと、良い思いができるとは思えない。
提灯を手にした小坊主は、目の前をちょこまかと蛇行しながら
相変らず、上機嫌だ。
とうとう、小坊主どもの列が終わる所まで来た。
背後からの声を聞きながら、提灯持ちを追い越した。
「お帰りは、こちらから降りられるんでございましょう?」
「いや、向こう側に降りる」
うかつにも、応じてしまった。
振り返ると、真っ白な小坊主どもの顔色が桜色に変わり、全員が
弓矢を構えている。
提灯持ちが、厳しい声で小坊主どもを叱りつけ、向き直ったが、
こいつも顔が赤い。
「向こうの連中には負けられませんので」
「お帰りは、どちらから?」
観念するしかない。
「ここから降りる事にするよ」
道の両側、真ん丸い桜色が、さっと白くなり、笑顔が戻った。
振り返り、歩き出した。
どうせ、ここはもう通らない。
思った瞬間、矢が一本、唸りを上げて耳の横を飛び去った。