山にまつわる怖い・不思議な話(山怖まとめ)

山の怖い話、不思議な話をまとめています。

のっぺりした岩を登る

      2015/12/14

593: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/03/27(日) 23:35:10 ID:pATgTwXT0
のっぺりした岩に貼り付いたまま、次の手がかりを指先で探る。
どれくらいの時間をこうして過ごしているのだろう。
涸れた沢の、ひからびた15メートルほどの滝にとりつき、半ば以上を
登った俺はその場にかじりつく以外、何も出来ない状況に居る。
太さ10ミリのザイル20メートルを輪にして袈裟がけにしているので、
その重みが肩にかかり、右腕がひどく使いづらい。

手足がしびれ始めている。
前に落ちた時は、分厚く降り積もった木の葉があった。
それでもひどく足首をひねり、その後の登りには大いに苦労した。
登り始める前に踏みしめた、冷たく堅い一枚岩の上に木の葉が
降り積もるほどの時間が経ったはずもない。
今日落ちれば、足首をひねるくらいでは済まないだろう。

しびれた爪先から、ついに力が抜けた。
支えられない。
腕が伸びきり、指先に力はなく、馬鹿な話だが手がなければ歯で、
などという言葉がよぎる。
身体がうんと軽くなった。
胃袋がせりあがり、右肩にずしりと来ていたザイルの重みが消えた。
気が付くまでもなく、身体は宙にあった。

594: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/03/27(日) 23:36:04 ID:pATgTwXT0
眼前を流れる岩肌に手を叩きつけた。
瞬間、ザイルの重みが右肩にかかり、身体が右方向に傾くのを感じた。
浮遊感は薄れ、真下に引かれ、加速を感じ、身体はますます軽い。

手首を掴まれた。
振り子のように振り回され、岩壁が遠ざかる。
何が起こっているのか分からない。
実際のところは、今もって分からない。

真下ではなく、斜め下に飛ばされた。
全身に衝撃を感じ、鼻の奥がちりりと焦げたように香った。
どうしたことか、落ちたのは土の上。

「もう、いらない」
声が、はっきり聞こえた。

その沢では、毎年のように死者が出る。
場所は一定ではないが、毎年のように一人死ぬ。

その年、俺の前に一人。

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出典:http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1107404112/