イノシシ撃ち
小さい頃読んだ本の話です。
昔、猟師を生業とする男がいた。いつものように、山に猟に出た。
山に入って獲物を探す男の前をふと1匹のアブがよぎった。
なんとなくアブに目をやった男は、そのアブが1匹の蛙に喰われるのを見た。
更にそこへ木の上から大きな蛇が落ちてきて、その蛙を丸飲みした。
あまりの出来事に驚いている男の前に、なんと大きなイノシシが現れ、
その蛇に襲いかかり、あっという間に食い尽くしてしまった。
呆然としていた男は、ふと我に返り、「ここで、このイノシシを逃したら猟師の名が廃る」
とばかりに、イノシシにねらいを定めた。
引き金を引こうとしたまさにその時、ふと男は思った。
「アブは蛇に喰われ、その蛇はイノシシに喰われた。もし俺がここで、こいつを撃てば、
俺はいったいどうなるのだろう」
恐ろしくなった男は、イノシシを撃つのをやめた。
すると背後から山を揺るがすような大きな笑い声が聞こえた。
そしてその声は「猟師よ、よく撃たなかったな」と…。
恐ろしくなった男は、慌てて山を下り、その日から猟師をやめたという。