林の中白く長いものが垂れ下がり揺れているのが見えた
2016/02/27
岩場に出る。
流れを外れた葉の下や、木の幹にまでその姿を見かけるほど
蟹が多く、その蟹の味わいも楽しみの一つだった。
雑木林に向かう途中、村道を歩いていると、多くの家の前に
藁束を燃やした灰が盛り上がり、そこかしこで線香が匂った。
その時期に訪れたのは初めてだったが、盆や彼岸でもないのに
線香が焚かれているのが不思議で、興味深かった。
元々あった土着信仰が仏教と混交し、こうした行事を生んだのだろう。
畑の真ん中や、ちょっとした木陰にある、小さな墓地には
竹ざおが立てられ、その先端から長く白い紙が垂れ下がり、
風に吹かれて揺れていた。
その墓地に眠る人の数と同じだけの本数、竹ざおが立てられて
いるのかもしれない。
道路端、唐突に立てられた竹ざおもあり、何束かの線香が
煙を上げ、周囲をいぶしている。
この調子では、すっかり線香臭くなって帰る事になりそうだ。
林の中、白く長いものが垂れ下がり、揺れているのが見えた。
林の中、霞か霧のように見えるのは、線香の煙に違いない。
白く揺れる紙は、数え切れないほどある。
そして、火事にでもならないかと心配になるほど、大量の線香が
焚かれていると思われる、煙の密度。
墓石も何もないが、おそらく、あの林は由緒ある大きな
墓地なのだろう。
俺が知っている中で、昭和50年代の終わりごろまで死者を
土葬していた村がある。
この村では、いつごろまで土葬していたのだろう。
そして、旨いとしか言いようのない蟹の味。
棺桶に収めて埋葬した死体を、蟹は食うだろうか。
直接は食わないだろうと思いつつ、それでも、土に帰る死体の
何がしかの養分が、雑木林の食物連鎖のどこかに関わっている事は、
容易に想像できた。
その後も、その雑木林を抜け、岩場へ遊びに行っている。
林では頭を下げ、足音をさせないよう気を付けている。
無論、蟹を捕えたりなどせず、飯粒や、揉みつぶしたパンなどを
少しだけ与えている。