山にまつわる怖い・不思議な話(山怖まとめ)

山の怖い話、不思議な話をまとめています。

全ての安定を失い、真下に放り出された

      2016/02/12

409: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/08/06(土) 00:23:42 ID:5CETcCcl0
意識は、今でもこの場所に残っている。
最後に感じた恐怖とともに、残っている。

アイゼンの爪先と、ピッケルの刃先で真っ青な氷に
引っかかり、バランスを取っていた身体が、
ほんの一瞬後には全ての安定を失い、真下に放り出された。

手首に引っ掛けたピッケルのバンドが、ぴんと張り、
ピッケルは、からからと軽やかに手先で踊っていた。
アイゼンの爪が氷のどこかに当たり、突然、仰向けにされた。
頭は下になり、上になり、時に全身で跳ね回った。
ヘルメットが飛び、頭に、じかに氷を感じた。
衝撃、闇、熱、それら全てが一度にやってきて、消えた。

ひしゃげた格好で倒れている自分を眺め、姿を失った自分が
滝のあちこちに、細く、切れ切れに残っているのを感じた。

昼も夜も、めぐる季節の間じゅう、そこでじっと周りを
眺め、様子を伺っているが、時に、上を目指して登る誰かの
意識が、滝に残る自分の意識に割り込んでくる。
割り込んできた他人の意識の一部が、ひどく突き刺さる場合もある。

410: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/08/06(土) 00:24:29 ID:5CETcCcl0
恐怖が湧き上がり、意識だけで、滝の上から下まで
滑り落ちてしまうのは、そんな時だ。
声を上げ、あるいは無言で、何も見ず、あるいは全てを見ながら
まっさかさまに、最後に訪れる闇と衝撃に向かって落下する。

今の見たか?
などと聞こえる事もある。
固唾を呑む別の意識を感じる事もある。

願う事は、そう多くない。
斜面に張り付くようにして、じっとしていたい。
恐怖が消えるなら、あるいは癒えるなら、意識が消えても
それでいい。
そして、季節に関係なく常に感じている、この真冬の冷たさ。
意識が消えれば、この寒さも消えてくれるのだろうか。

どうにかしてほしい。

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出典:http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1121734649/