直登せず左から半円を描くようなコースで登って上を目指そうと思った
2016/02/22
岩肌は、びっしょり濡れ、傾斜は嫌な具合にゆがみ、
指先や爪先をどう使っても、体を支えきれなかった。
この岩が、こんなにひどい状態になっているのは初めてだった。
登れそうだという気持ちは、消えていた。
こうなっては、高巻きするしかない。
岩を直登せず、脇の斜面を、左から半円を描くようなコースで登って
上を目指そうと思った。
距離は3倍に伸びるが、仕方ない。
とはいえ、その高巻きのルートさえ充分な難所なのだ。
藪に潜り込むと、先の様子が見えず、足場は悪く、うっかりすると
急斜面で立ち往生する事になる。
藪の中、ちらちらと光は漏れるが、葉と枝以外、何も見えない。
かさこそと音がし、地下足袋にワラジを履いた足が右上、低木の間に
すっと入り込んだように見えた。
少し迷ったが、思い切ってその後に続いた。
その後数回、見通しのきかない斜面の中、地下足袋にワラジが現れ、
上に向かい、俺はそれに続いた。
地下足袋にワラジで示されるルートが斜めになり、岩の上に出るのが
近いことを感じた。
それらしい場所が見え隠れし始めた。
位置まで詰めた時、地下足袋にワラジが現れ、目指す岩の真上に
向かうルートに消えた。
何となく、おかしい。
確証があるわけではないが、これまで、ルートを示していたのは
右足だった、ような気がする。
最後のは、左足だった。
違和感。
嫌な予感が、ルートを変えさせた。
岩の真上ではなく、もう少し奥に出ようと思った。
何か、息吹のようなものをザックで覆われた背中で感じた。
岩の真上に張り出した木の枝が、激しく揺れ、大きな音を立てた。
最後の左足に従っていたら、どうだったろう。
興味だけは、いまだにある。