笹の葉が一枚、ぴんと跳ね激しくといって良いほどの勢いで揺れ始めた
2016/03/03
意識するほどの風はなく、他の葉はほとんど動かない中、
その一枚だけが突然、何かに弾かれたように跳ね上がり、
跳ね返り、激しくといって良いほどの勢いで揺れ始めた。
笹の茎はぴくりともしない。
葉に張られたクモの糸でも引っ掛けたのだろうか。
似たような光景は山道だけでなく、街中でも見かける事が
あるので、それほど気にしなかった。
激しく揺れる笹の葉の脇を通り過ぎると、3メートルほど先の
笹の葉が弾かれたように揺れ始めた。
そしてまた、歩くに従って次の葉が揺れる。
山道だけでなく、街中でもこれはない。
振り返ってみたが、どの葉が揺れていたのか分からない。
足元では、笹の葉が激しく揺れている。
音でもしやしないかと思うほどの揺れ方だが、特別な音はない。
歓迎、威嚇、合図。
そんな言葉が浮かび、偶然という言葉が、それらを否定した。
瞬間、空気が弾け、足をすくわれ、転倒し、這いつくばった。
頭上、空気が唸った。
風が巻き、緑が香り、寒気を感じた。
笹の葉ではなかろうと、すぐ思った。
よほど大きな何かが、俺めがけて殺到したのだと思った。
小さな、軽い何かが首や肩にぱらぱら当たった。
目を開けると、杉の枝が見えた。
枝だけではない。
左の斜面から、杉の木が倒れ込んできていた。
根元の土は掘り返され、空気に触れたばかりの土特有の
色と匂いがあった。
意地になって杉の木をまたぎ、先へ進んだ。
20メートも歩いてから振り返った。
予想通り、倒れている木など、どこにもない。
どの木が倒れていたのか、分からなかった。
誰が、あるいは何が悪戯しているのだろう。