さらさらっと、何かが首筋に降りかかり次の瞬間、視界全体が真っ暗になり、背中に衝撃を感じた
2016/02/28
右足が流れ、木の葉が浮きあがり、小石が転がった。
転がった小石は、ざぁっと音を立て、その音がいくつも重なり、
ついに足元の斜面が幅数メートルにわたって崩れ始めた。
崩れた斜面は更にその幅を広げ、速度を上げ、重さを増し、
どっと流れ去った。
悲鳴、叫び声。
一人ではない。
大人数ではなさそうだが、よく分からない。
下には誰もいないはずだった。
その日は俺と友人の二人連れで、さっきまで目の届く限り、
俺たち以外、誰も見えなかった。
しかし、今の声。
滑り、跳び、転びながら斜面を下った。
表層がすっかり崩れた斜面はすっかり落ち着き、新たな
落石や土砂崩れは起こらなかった。
崩れた土砂が積もった所へ飛び降り、見回したが、誰もいない。
崩れた土砂に埋まったかと思ったが、それほどの量ではない。
あの声は何だろう?
不思議な思いが広がった。
次の瞬間、視界全体が真っ暗になり、背中に衝撃を感じた。
地面に叩きつけられた。
土砂崩れだという事は、すぐ分かった。
静かになり、全身で痛みを感じた。
ポリタンクの水で目を洗っっていると、友人が寄ってきた。
「やられちゃったなあ」
何の事だろう。
「今の、空から降ってきたぜ」
友人も、さきほどの悲鳴は聞いていた。
俺が駆け下りると、木立のはるか上から大量の土砂が
降ってきたのだという。
「お、お宝だ」
俺を直撃した土砂の塊から彼が拾い上げ、俺に差し出したのは、
黒曜石の小さな矢尻だ。
たった今作りましたというくらい、綺麗に光っている。
紐を巻くための窪みの削り方は、明らかに人工的なものだ。
俺と友人が同時に顔を挙げ、周囲に目を走らせた。
二人同時に、何かを感じたらしい。
今日は帰った方が良さそうだ。
矢尻は結局、持ち帰った。
今も、手元にある。