正月と盆は登山を忌む
2016/12/26
高知県土佐郡大川村の話。
三十余年前にあった事件である。
大川村というのは、四国の屋根の南面にある寒村であるが、この村の中心部にある国民学校の児童が教員に引率されて、隣村本川村
分の平家平(一六九三メートル)に登ったことがあった。
その時、六年生の山中徳美という一少女が、残雪を取りに行くと告げて仲間から外れたまま、点呼にもれ、一同帰村後それとわかっ
て大騒ぎになり、愛媛県側の別子山村や高知県の本川村も協力して、麓から頂上までをくまなく捜査したが行くえ知れず、数日たってようやく発見されたことがあった。
しかし、発見された時、捜査側の人たちを見て一瞬逃げようとするそぶりを見せたといい、高山の残雪の中で彷徨しながら、ソータ(袖なし)もぬぎ、寒気も空腹も感じなかったというから異常である。
平家平には、平家の落人たちの怨霊がさ迷っているという伝承があり、正月と盆の十六日には登山を忌み、この日には赤旗が立つともいわれている霊山であった。
出典:桂井和雄著『桂井和雄土佐民俗選集 その一 仏トンボ去来』