2人は山頂にあるアンテナ鉄塔の点検に出かけた
2016/12/26
い体験をしました。これまで幽霊とか妖怪とかそういうものは信じていませんでしたし、
そういった現象に出くわしたこともなかったのですが、今回の出来事は、自分のそういう
認識をひっくり返してしまうようなものでした。未だに、あれが現実の出来事だったのか、
自分の幻覚だったのか、確信は持てないのですが・・・・
去年の12月27日、私と上司2人は山頂にあるアンテナ鉄塔の点検に出かけました。
山道を車で登っていったのですが、途中で雪が深くなってきて、その時はスタッドレスタ
イヤを履いていなかったのでそれ以上進めなくなり、しかたなく神社の前に車を置いて1
キロくらい歩く事になりました。
雪は表面が凍っていて、踏むとザクザクと音がします。不思議と木には雪が積もっていな
かったので、上司(Kさん)に聞くと「木の枝に積もった雪は、すぐに下へ落ちるからな」
と答えました。そうやって周りの景色を見たり雪に足を取られたりしたので、鉄塔に近づ
くまでに30分以上も掛かってしまいました。
鉄塔が間近に見えて、車道から林の中の道に入ったあたりで、Kさんが上を見上げながら
言いました。「木の枝に何か引っかかっているぞ」
私ともう一人の上司(Tさん)が上を見ると、木の枝に地面から5メートルくらいの枝に
細くて白い布みたいなものが絡んで風になびいていました。更に行くと、鉄塔の回りに張
ってあるフェンスやゲートの鉄格子にも同じものが絡みついているのが見えてきました。
近づいてよく見てみると、それは布ではなくて紙でした。黒で何か書かれた紙を細く裂い
たような感じでまだらになっています。
「山仕事に入っている人のイタズラかな?」「気持ち悪いなぁ」などと言い合いながらゲ
ートの鍵を開けて中に入りました。続いて、鉄塔のドアに鍵を突っ込んで回して開けよう
としたのですが開きません。おかしいな~と思って反対に鍵を回したら、今度はすんなり
と開きました。
「ここ鍵が開いてたみたいですよ」と私が言うと、Kさんに「そんなはずはない。前に来
た時にちゃんと鍵を閉めたはずだ」と言い返されました。
か臭いな」とか言っています。
電源や通信のパネルを点検していると、奥の方でTさんが「んんん?!」と声を上げまし
た。近づいてみると、階段の下あたりに動物の毛がバサッと落ちていました。「これ鹿じ
ゃないかな?」それを見たKさんが言いました。毛を足でどけてみると、その下に血痕が
いくつかありました。「ここで食われたのかな?」とTさん。それにしては骨も残ってい
ないし、血も少ない気がしました。それに入口のドアは閉まっていたので、鍵が開いてい
たとしても動物が入れたとは思えません。
おかしいなぁとは思いながらも、原因が分からないので、とりあえず毛を集めて外に捨て
ました。血痕は、外から雪を持ってきてこすったら少し薄くなったので、そのまま放って
おくことにしました。寒いし気味が悪いしで、早く点検を終わらせて帰りたい一心で私は
チェックリストを埋めていきました。
「ホゥゥゥゥ」遠くの方でそんな感じの声が聞こえました。
アンテナの方に行っていたKさんの声かと思って「Kさーん!」と叫ぶと、「何だー!」
と別の方向から声が返ってきました。あれ?と思ったのですが、その時はTさんが外で仕
事していて声を出したのだろうと思って気にしませんでした。
ようやく点検を終えてドアの外に出ると、自分一人でした。Tさんを捜して周りをグルリ
と回ったのですが、見当たりません。何となく中に入るのが嫌で外で待っていると、すぐ
にKさんとTさんが一緒に出てきました。
「Tさん、さっき外で呼んでませんでしたか?」
「いやぁ呼んでないよ。俺とKさんで上のボルトの点検してたから」
「おかしいなー。さっき『ホゥ』って誰かが叫んだのが聞こえたんですけどねえ」
「それ俺らも聞いて、てっきりお前だと思ったんだけど…」
「違いますよ」
「いや、お前が俺を呼んだ声が意外に近かったから、おかしいなぁとは思ったんだけどな」
そんな事を言い合いながら、今度はドアに鍵を掛けたのを3人で確認してフェンスの外に
出ました。細長い紙切れは気持ちが悪かったので、あまり触らずに放っておきました。
Tさんの後ろを私が少し離れてついて行く形で、下り坂は滑るので足元を見ながらうつむ
いて歩きました。辺りの林はとても静かで、ザクザクと雪を踏みしめる音だけが聞こえて
きます。灰色っぽい雲の隙間から遠くの夕焼けが見えていました。
私は、さっきの事を考えながらボンヤリと足元を見つめるうちに、ちょっと奇妙な事に気
が付きました。私達は上りも下りも道の左側を歩いていて、つまり上りと下りとは反対の
側に足跡が付いていました。私の目の前にはTさんとKさんの長靴の跡が並んでいたので
すが、その間にもう一つ、小さめの足跡がありました。最初は自分が上った時の足跡かな?
と思いましたが、それは道の反対側にあるはずです。
上りの時には真っ新な雪面だったのが強い印象として残っているので、私達が上る以前に
誰かが歩いた跡とは思えません。となると、これは自分達が上った後に付いた足跡だとい
う事になります。良く見てみると、その足跡は下を向いていました。だから、これは誰か
が自分達よりも先に下った時の足跡なのだと、その時はそう思いました。
でも、その誰かは、いつ、どこから山に上ったのでしょう?
それよりももっと気になる事がありました。その足跡はどう見ても裸足だったのです。雪
の上を裸足で歩く人間は多分まともではありません。私は前の二人に声を掛けるために視
線を上げようとしました。
うわッ!と思って思わず足を止めました。
すると視界から足が消えたので、恐る恐る視線を上げて前を見ました。少し離れた所にK
さんとTさんが並んで歩いている他に人影は見えません。周囲を見渡しても動くものなど
何もありませんでした。不思議に思いましたが、どうしようもないので再び足元を見なが
ら歩き始めました。
しばらくすると、また前の方に足が見えました。驚いて足を止めるとスッと視界から消え
ます。が、歩き出すとすぐに見え始めるのです。小さくて白い裸足が1.5mくらい前を
自分と同じ速さで歩いているようです。ちょうどかかとの辺りに白っぽい布が掛かってい
るのが見えました。
もう怖くなって前を見ることができませんでした。ひたすら足元を見ながら道を下って行
きます。耳を澄ますと、前の方からKさんとTさんが低い声で話すのが聞こえてきました。
それにザクザクという足音が被さっているのですが、それが3人なのか4人なのかは分か
りません。何となく、目の前の足は音を立てていないように思えました。
やがて、先を行く2人の足音が途絶えました。と同時に、視界から裸足の足がスッと消え
ました。怯えながら目を上げると、いつの間にか車の所まで来ていました。
私は心底ホッとしてすぐに車の方に駆け寄りました。すると、KさんとTさんが「これか
ら神社に詣ろう」と言い出したのです。
もう暗くなりかけているし、こんな所で時間を潰していたら、路面が凍結して帰れなくな
ってしまいます。そんな事は分かっているはずなのに2人は「ここまで来て神社へ行って
おかないとダメだ」「すぐに済むからお前も行こう」などと言うのです。
入口から見ると、鳥居の奥は木が鬱蒼と茂っていて、どこに何があるのか全然分かりませ
ん。こんな所へ入って行くのは絶対に嫌だったのですが、だからと言ってここに一人で置
いていかれるのも怖かったので、必死の思いで2人を説得して、どうにか車に乗せること
ができました。
ない場面があったのですが、2人共声を上げるでもなく黙ってシートに座っていました。
バックミラーで見ると首がグラグラ揺れていて、まるで寝ているようでしたが、目は開い
ていてジッと前を見ていました。
と、ここで来て変な事に気が付きました。2人とも後部座席に座っているのです。
いつもは必ずTさんが助手席に座るはずなのに・・・そう思い始めると、もう助手席の方
を見ることが出来なくなりました。極力前だけを見て運転するうちにようやく麓まで下っ
てきました。
すると、今度はKさんとTさんが2人揃って「ここで下ろしてくれ」と言い出しました。
「近くに知り合いがいるから会いに行く」と言ってききません。
「じゃあ、その家まで送りますよ」と私が言うと「お前はここで帰れ」と言い張ります。
「ここから先は道がややこしいし、帰りにお前が迷ってしまうかもしれない」「早く会社
に戻って、先に帰ったと言っておいてくれ」と。
正直自分も早く帰りたかったので、最寄りの店の前で2人を降ろしました。車から降りる
際に、Tさんが何気ない様子で助手席のドアを開けてすぐに閉めたのを見た時、全身にゾ
ワッと寒気がきて、すぐに車を飛ばして会社に戻りました。
翌日、KさんとTさんは2人とも休みでした。年末年始の交代勤務があるので、この時期
に休むのはおかしくないのですが、私は昨日の事があったので凄く気になりました。携帯
に電話すると、Tさんには繋がりませんでしたがKさんは「休みの日にまで電話するなよ」
と笑っていたので、その時は少しホッとしました。
しかし、結局2人とも正月の交代勤務には出てきませんでした。
その後、年明け早々にTさんは会社を辞めました。理由は聞いていませんが、辞表が郵送
されてきたそうです。Kさんには誰も連絡が取れないそうで、あれ以来、携帯に電話して
も通じません。山を下りた時に無理にでも連れて帰れば良かったと後悔しています。
一気に書いたので、ちゃんとしてないかもしれません。ごめんなさい。