山にまつわる怖い・不思議な話(山怖まとめ)

山の怖い話、不思議な話をまとめています。

分厚い樹脂製のカップを手に入れた

      2017/05/02

708: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/04/16(日) 08:32:35 ID:uwWS+oDZ0
山を本格的に始めた高校生の頃、分厚い樹脂製のカップを
手に入れた。
山岳用品店であれこれと用具を買い込んだ際、おまけとして
店員がくれたものだ。
何となく気に入り、割れる心配が不要なほど丈夫なことから、
やがて山だけでなく、普段の生活の中でも使うようになった。

山の道具としては、おそらく、一番身近に置いて使ったものだろう。
3000メートルを越える高所にも、マイナス20度という寒冷地にも
持って行ったし、水などを飲むだけでなく、蕎麦つゆも入れた。
すき焼きを食うときに、生卵をといて使ったこともある。
5年、10年と経つうちには、細かい傷がつき、汚れが染み付き、
漂白しても落ちなかったが、持ち主である俺が使う限り、何の問題も無い。
そうした汚れさえ、愛着のうちだった。
衛生観念とは別のものだ。

ハイキング中に、縦長に何層もの板状の岩が堆積した地層をむき出しにした
崖を見上げ、これが崩れたら死ぬなあと思いつつ、足早にそこを
通過しようとしていたら、本当に一番外側の岩が、巨大な板状の形のまま、
滑るように降ってきた。
幅も長さも数メートルある岩の板が、目の前、突き刺さるように落ち、
俺とは逆の方向に地響きを立てながら倒れた。
地面と空気が重々しく振動し、ばらばらと続いて岩が降り始めた。
その場を離れることは大事だったが、落石の場合、動こうが逃げようが
当たるときは当たるので、おそらくは血走っているであろう目を
上に向け、わずかにオーバーハング状になった岩の下に入り込んだ。

709: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/04/16(日) 08:33:35 ID:uwWS+oDZ0
崩れている岩の真下に隠れるというのも、妙な話だと思い、
見上げると、厚さ数センチの黒や錆色の岩が何層も重なっていた。
これが一気に崩れたら、本当におしまいだと思ったが、仕方ない。
崩落は表層だけで収まり、これといった怪我もなく再び歩き出した。

危険地帯を抜けたところで休憩し、温かいものでも飲もうとコーヒーを
沸かしている最中、いつものカップを手にとって眺めるでもなく見ていると、
カップの内側に一本、筋が入っているのに気付いた。

今まで、こんな筋はなかった。
気付かなかっただけだろうか。
カップの縁をつまみ、ねじるように指先をひねると、カップは筋から
ぽきんと音を立てて二つに分かれた。
竹筒を輪切りにしたような樹脂製の輪を右手につまみ、呆然とした。
割れた部分は滑らかで、鋭利な刃物が一瞬、そこを通過し、
切り離したように見える。

身代わりだろうなあと、ごく自然にそう思った。
下山するまでに、カップは取っ手が折れ、さらに割れ、底が抜け、
いくつかの破片へと姿を変えた。
破片は全て持ち帰り、古道具の供養をしているという寺に送った。

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