山にまつわる怖い・不思議な話(山怖まとめ)

山の怖い話、不思議な話をまとめています。

水が少なくなった滝を登っていたら何かの鳴き声が聞こえた

      2016/12/26

867: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/12/05(月) 22:58:29 ID:4XciE5Q30
雪解け水の季節や、夏の降雨期を終え、水が少なくなった滝を登っていた。
掌に吸い付く一枚岩の乾いた冷たさが心を浮き立たせ、指先に感じる小さな
窪みが何とも気持ちよく、気温や湿気、光る空気が心地よかった。

水が少ない滝はルートに幅があり、自分の技術に合わせて、好きな
ルートで登ることが出来る。
俺は右斜めに登り、最後に水を避けて左へ逃げるルートで登っていた。

顔にかかる水しぶきが増え始めた。
そろそろ左へ方向を変えよう、そう思った時、不意に声がした。
何かの鳴き声に思え、耳を澄ました。
人の声だ。
距離は分からない。
言葉は意味あるものとして耳に届かない。
じっと聞き耳を立てた。
水音が邪魔で、やはりよく聞こえない。
下にいる仲間たちの声ではない。

右側、水の流れの向こうから聞こえてくるように思えて仕方ない。
知らず知らず、身体が右に寄った。
左手が岩の窪みを掴み直した時、岩がぐらりと揺れた。

868: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/12/05(月) 22:59:29 ID:4XciE5Q30
まずい。
掴んでいた突起がもげ、手ごたえの無いまま左手が宙に浮いた。
バランスが崩れ、右手に力を込めた。

崩れたバランスを回復させようと、全身が力みかえり、呼吸が止まり、
喉が痛くなるほど唸った。
左足に力は入らず、ただ岩の上にあった。
右手右足を支点に、ドアが開くように煽られた身体がじわじわと戻り、
岩が左手の中に入ってきた。
左手中指、力を込め、岩にしがみついた。

「ごめんね」
耳元で男の声がした。
瞬間、水の流れる音が変わり、水が巨大な塊となった。
音と水しぶきが、俺の世界を満たした。
両手から岩肌が失われ、数メートルを滝壷まで落ち、下で待っていた仲間に
引き上げられた。
俺が怪我ひとつしていないことが分かると、心のどこかで何かが外れ、
最初に俺が笑い出し、やがて全員が爆笑した。

仲間たちにとって、今でもそれは不意の増水と、無様に転落する
俺の姿とによる笑い話でしかない。

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