壁の基部でルートが分かりづらい時、残置ハーケンを探すというのは、ひとつの方法
2016/02/08
残置ハーケンを探すというのは、ひとつの方法だ。
残置ハーケンというのは、以前に誰かが打ち込んだハーケンで、
それがぽつぽつ見受けられるようなら、そのルートは
誰かが登ったという目安になる。
ある岩場でルートを探すうち、残置ハーケンを見つけた。
古いのか、打ち方が悪いのか分からないが、ハーケンが浅く、
抜けかかっていて、まさかとは思うが、うっかり掴まろうものなら、
墜落しかねないほど危うく見えた。
この際、抜いておこう。
屈み込み、指をかけ、引き抜こうとしたハーケンは、簡単に
抜けそうな感じがしたので、指の力を緩めた。
と、ハーケンが何かに引っかかり、止まった。
ぐぐっ、指先に力を感じた。
ハーケンが岩に潜り込む。
目の前、引き抜こうと指をかけたハーケンが、まっすぐ岩の
割れ目に刺さっていくのが見えた。
そして数秒。
どこをどうしようと、このハーケン、もう抜けそうになど見えない。
蹴飛ばしてみたが、ぐらりともしない。
「やる気出したみたいだな」
冷静なのか、動転しているのか、友人が馬鹿なことを言って
登り始め、俺も続いた。
彼も俺も、二度とこのハーケンの事を口にしなかった。
ゆるゆると歩いていていくと、岩をくりぬいた窪みに、人形が並んでいる。
かなり前に見つけた人形で、高さは20センチ以上あり、作りは雛人形だが、
その頬はこけ、肌は茶色く、手の甲など、干からびているように見える。
目は半開きで、干からびたように後退した唇からのぞく歯は、黄色い。
それがちょこんと二体、並んでいる。
何に似ているといって、即身仏に似ている。
耐久性や手入れなど、どうなっているのか分からないが、ともかく
そこに、ずっとある。
不気味で仕方ないが、近くへ行くと、つい覗いてみたくなる。
何回目かの訪問で、周辺の草の中に三体の人形と小さな食膳を見つけた。
それらの人形は倒れ、汚れにまみれているが、肌は白く、
頬はふっくらしているように見えた。
食膳と対になっていて、膳の上には、食事が固定されていた。
その後、食膳と対になった人形を見かけることは無かったが、
その場所を知る知人によれば、つい最近、汚れきった人形が三体、
食膳を前に座っているのを見つけ、ぞっとしたという。
それらの人形は、やせこけ、腹がぷっくりと膨らんだ餓鬼の姿を
しており、食膳の椀や鉢、皿はすっかり空っぽなのだという。
何かの儀式なのか、あるいは趣味やパフォーマンスなのか。
個人的には、うずうずとその人形を見たくなってきている。