子供に引かれる
2016/12/26
夜半、車で雪の峠道を走っていると突然チェーンが外れた。
降りて見てみると、後輪の向こう側で外れたチェーンがプラリと垂れ下がっている。ホイ
ールハウスに手を突っ込み、手探りで繋ごうと四苦八苦するうちに、指先に柔らかいモノ
が触れたかと思うといきなり掌を掴まれグイッと引っ張られた。思わず足を滑らせて転ぶ
と、車体の下を覗き込む体勢になった。
子供がいた。ニヤニヤと笑いながら両手で私の手を掴んで放さない。小学生のように見
えたが、掴まれた手を振りほどこうとしてもビクともしなかった。もがくうちに、頭上でミシリ
とイヤな音がして車がゆっくりと動きだした。
エンジンはかけっぱなしだったが、サイドブレーキは掛けてあったし、ATもパーキングに
入れたあったはずだ、勝手に動くはずがない。後輪の前に投げ出されていた腕の上をタイ
ヤが通過した時、激痛に襲われながらもそんな理不尽な思いに突き動かされ、私は車の
窓の方を見上げた。
車内から子供が2人こっちを見て笑っていた。
30分後、たまたま通りかかった車に助けられるまで、私は骨折によるショックと訳の分か
らない恐怖で立ち上がることができなかった。ずっと雪の上で横になっていたため、体は冷
え切っていたが腕の痛みはあまり感じなかった。車は数百メートル離れた路肩に停められ
ていた。
後日聞いた話によると、十年程前に子供が3人その山に迷い込んで亡くなったらしい。