岩棚での昼食を食べているとカラビナの表面が凍っていた
2016/12/25
途中で休憩しなければ登れないほどの岩ではない。
たまには変わったところで食事をしたいと思っていただけだ。
古びてはいるが、しっかり打ち込まれたハーケンに細紐を
通し、カラビナで身体とつないだ。
幅30センチほどの平らな岩棚に座り、足は空中に
ぶらぶらさせている。
地面は、かなり下に見える。
これが真冬のビバークなら、足の指を、何本か凍傷で失うことに
なるだろうが、冬とはいえ、秋晴れの余韻を残したような
陽気の、初冬の昼飯時。
肌寒くはあったが、それさえ季節の味わいと思えた。
湯を沸かし、紅茶にはジャムをたっぷり入れ、
砕けたクラッカーを食った。
食事を終え、片付けを済ませ、ここで立小便のひとつもしたら
さぞ気持ちよかろうなどと話しながら、カラビナを外そうとした。
カラビナの表面が、凍っていた。
湯を沸かした時の蒸気が着いて、それが凍ったかと思ったが
それほどの気温でもないし、第一、カラビナを覆う氷の厚みは
2ミリや3ミリありそうだ。
カラビナのゲート開閉部を固定するロックも凍り、カラビナが
外せない。
ナイフの背で叩いたりしてロック部分を覆う氷を取り除き、
カラビナを外し、細紐を解き、狭い足場に用心しながら立ち上がった。
パートナーに声をかけ、岩に手をかけようとしたとき、
落石の音が聞こえた。
ざざっという連続音。
大きくはないが、多くの石が急斜面を流れる音。
俺たちのいる場所の少し上を斜めに横切り、右斜め下あたりから
いくつも石が飛び出し、下へと消えた。
「危ねえな」
つい、声が出た。
次に思ったのは、カラビナが凍らず、すぐに動き出していたら
落石に巻き込まれたかもしれないということだった。
石が消えた方角、はるか下を覗いた。
初冬らしい肌寒さを感じながら、よく晴れた青い空を見上げた。
カラビナが凍るような陽気ではなかった。