テントをゆるりと巡って何者かの足音がした
2017/03/12
もう何年も、原付バイクにテントなどを積み込んで、
暇を見つけてはツーリング野営をしている。
ギアもないスクーターというのが苦手で、
ここ数台はスーパーカブを愛用している。
ただ、景気が悪くなって、常識のないホームレスが増えたせいか、
町並みに近いところでのテントは難しい。
その点、山は気楽だ。
観光林道の茶店や展望台(たいていは見晴らしのいいカーブ)など、
土日の林道バカ共のバカ騒ぎさえ避ければ別天地だ。
最近はさらに、そういうところから一息山道を登ったあたりに幕営する。
夜中に物音で目が覚めることがある。
よく聞くと、テントをゆるりと巡っている、何者かの足音がするのだ。
それは決まって「仁義」を切り忘れたときに起こる。
小学生の頃の夏休みには、祖父母の家に一人でずっと逗留していたが、
祖父と野山を駆け回りながら、そのへんで立小便したくなったとき、
「御免なさいまし、と言うんだよ」と祖父が教えてくれた。
テントを張るにも、この「御免なさいまし」の仁義を切り忘れると、
決まって夜中に、テントを巡る足音を聞く。
はじめのころは朝まで震えていたが、
いまでは「気が利きませんで」と一人ごちて、その後は寝られるようになった。
「御免なさいまし」
人の付き合いでも、人と山との付き合いでも、
求められる礼節なのかもしれませんな。