山にまつわる怖い・不思議な話(山怖まとめ)

山の怖い話、不思議な話をまとめています。

屋久島の山姫

      2016/12/14

「屋久島の山は深いもんじゃから山姫という者がおんど。じゃから、あまり深い山に入るな」年寄りたちはこういって子どもたちをいましめています。

「山姫はきれいなおなごで、髪は今洗ったばかりのつやのある洗い髪で、うしろへ長く垂らしている。そして十二ひとえの緋(赤い)のハカマを着て現れる」

とか、または、

「山姫は木の精だ。それで旧の正月、5月、9月の山の神祭りの日には、ぜったいに山には行くな。この日、山姫は祭りの潮水汲みに、タンゴ(木の桶)を下げて(持って)降りてくるものじゃ。」

「山姫にあったら、向こうが笑わんうちにこっちから笑え。山姫が先に笑ったら、たちまち首の血を吸われる。山姫が怒ってくるときは安全だ。」

「山姫は、はじめその顔を、正面からはけっして見せない。後ろ向きに見せる。
そして横に顔をふって横顔を見せる。このとき笑う。笑ったとき、こちらがつい、つりこまれて笑うと、血を吸われる。そしてその人はもう帰らない。笑わずに、にらみつけておけば、山姫は去って行く。」

「山姫に出会ったら、ワラジの鼻緒を切って唾をかけてなげてやれ。あるいは、カイノ(背負い道具)のひもをちぎって投げてやれ。それで、カイノのひもは必ず片方は長くしておくものじゃ。」

「山姫は三味線をひいて歌を歌うこともある。赤ん坊を抱いていることもある」

などと、いろいろいわれて、山姫は大変恐れられているのです。

さてある年のこと。吉田部落の若者が白銀山に炭焼きに行きました。

ところが山の中で、背の高い、腰にシダを巻きつけたはだかのおんなに出会いました。よく見ると髪は茶色、ひふはまっしろで、いままでにみたこともない美しい女です。
まるで吸い込まれるような魅惑的な感じです。次の瞬間、

「山姫だ。」

若者はこう思って、腰を抜かさんばかりに驚きました。

若者は急いで傍らの榊の枝を折って、それを降りながら、一目散に山をかけ下りました。榊の枝は魔よけになるといわれています。若者はそのおかげであやうく命びろいしました。

もうひとつ、こんな話があります。

名超(なごえ)という男が宮之浦の向こうの地獄谷というところに竹切りに出かけました。竹を一本切ったときに、大雨がザーザー降って来ました。そこで手拭いで顔を拭いて、ちょっと向こうをみたら、たてじまの着物を着て、髪はかかとまで垂れ下がった女がつっ立っています。

次の瞬間、何か、ぴしゃーと女の威光にたたきつけられて、男はそこにひざまづいたまま、しばらく頭は上がりませんでした。

雨はどんどん降っています。男が恐る恐る頭を上げてみると、女はすぐ近くまで来ていました。男は夢中で後ずさりしながら、

「もう二度とここには来んから、どうか許してくれ」

と一心に詫びました。そしてふたたび、頭を上げると、女は2間ぐらい先に立って、にこにこ笑っています。男はどうなることかと生きた心地もなく、そのままひれ伏していました。

そのうち、雨がやんで来ました。男が恐る恐る頭を上げてみると、竹やぶの小道を、女はそろそろと向こうへ行くところでした。黒髪をかかとまで垂らしたその後ろ姿も、飛び上がるようなべっぴんでした。

やがて雨はすっかりやんで、カラッとしたウソのような上天気になりました。男はやっと安心したものの、さっき切った1本の竹はそのままにして、急いで家に帰りました。それから一週間、男は寝込んでしまったということです。

はなし 屋久島町 宮之浦 荒木謙次郎(36)
屋久島町 宮之浦 中島菊助(68)
屋久島町 宮之浦 岩川貞次(60)
屋久島町 一湊 浜崎三郎(71)
屋久島町 志戸子 森熊助(81)
屋久島町 永田 岩川シマ(50)
屋久島町 吉田 田中政一(50)

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出典:出典:「屋久島の民話 第二集」http://www.realwave-corp.com/02learn/08/index.htm