猪捕獲機
仕事で遠出する際に、近道をしようと山中を突っ切ることにした。
普段と違う道を走っていると、小さな鉄工所の傍を通り過ぎた。
道に面して奇妙な物が置いてある。
金網ともう一つ、まるでフォークリフトの出来損ないのように見えた。
興味を引かれ、車から降り近寄ってみた。
まず金網の方を見た。ぶら下げられたタグには『猪捕獲網』とある。
頑丈な金網が編み込まれ、罠のような構造になっているようだ。
それから問題の、奇妙な作業機械に目をやった。
薄緑色に塗られたその機械、何と説明したら良いものか。
下部には二つの小さなキャタピラがあり、その上に剥き出しの座席。
前面にはショベルカーのようなバケットが付いている。
そこまでは良い。小型のパワーショベルといえないことも無いだろう。
理解できないのは、機械上部に設けられた二本のアームだ。
多関節構造で、先端には解体で使われるような大きな爪が付いている。
どうやら油圧で制御するらしい。何なのだ、これは?
その機械にもタグが下げられていた。
『猪捕獲機』
まじまじと機械を見直す。
爪やバケットに、硬い物と擦れたような傷が、何箇所も付いていた。
実際に使われたことがあるのだろうか?
話を聞いてみたかったが、生憎と誰もいない様子だった。
首を小さく振ってからその場を後にする。
その日一日中、その機械に乗って猪と格闘する山男のイメージが、頭をよぎって
離れなかった。
あれから何度か横を通ってみたが、その機械はもう置かれていない。
網はそのまま残されている。
なぜかもう話を聞く気も起こらず、あれは白昼夢だったのかとも今は思う。