影との取引
2015/08/23
彼は学生時代にオフロードバイクを趣味にしていたという。
よく一人で山中の林道を走っていたそうだ。
ある夜、バイクの横でシュラフに包まっている時のこと。
ふと目を覚ました彼は、すぐそばに小柄な影が立っているのに気が付いた。
身を硬くする彼に、それは奇妙な抑揚をつけて話しかけてきた。
望みを言え。お前の大事なものと交換してやろう。
大手の企業に就職が決まっていた彼は、しばらく考えてから答えた。
会社で大出世をさせてくれ。代わりに俺の子どもを差し出そう。
よかろう。その願い聞き入れた。
承諾の返答が聞こえると、影はすうっと消え去った。
彼は身を起こして、くすくす笑ったという。
おかしな夢だと思っていたし、何といってもその時、彼はまだ独身だったのだ。
当然子どもなどいるはずもなかった。
その企業では異例の大出世で、陰口も色々と叩かれたという。
彼自身の頑張りももちろんあったのだが、ライバルたちがことごとく病気や事故で
脱落してしまったせいだった。
呪いという言葉まで囁かれたのだそうだ。
元来勝ち気な彼は気にもせず、ますます仕事に邁進した。
会社の創業者の孫を嫁にもらい、向かうところ敵なし順風満帆だった。
それからしばらくして、彼は影との取り引きを思い出すことになる。
彼の妻が流産してしまったのだ。
あれは夢だったはずだ、何かの偶然だ。
そう思ったが、妻はそれから続けて二回流産をくり返した。
検診では母子ともに健康だったといい、医師にも理由が分からないと言われた。
憔悴しきった妻には、とても約束のことは話せなかった。
彼は恐怖に襲われ、あの林に一人で出向いたらしい。
しかし彼の前に影は現れなかった。
必死で林に向かってひざまずき、あの願いを忘れてくれと頼んだという。
現在、彼の妻は四回目の妊娠をしている。
周囲はいささか神経質に見守っているのだそうだ。
どーもです。>>738はなかなか鋭いとこ突いています。
忘れてくれと彼が訴えてからしばらくして、彼の担当していたプロジェクトが
失敗して大赤字を出してしまい、責任を問われたそうです。
結局、創業者一族のどろどろとした争いに巻き込まれた形となり、地方の
支店へ左遷になってしまったとか。
肩書きは上がったそうですが、負け組み確定になったようで。
奥さんは甘やかされて育ったお嬢様らしく、読書好きでも物静かでもない
ようです。すごいわがまま・・・夫婦仲は良いようですが。
奇妙な流産だったようで、精神的な面以外には母体に悪い影響はなかった
と医者に言われたんだとか。
まるで何かに腹の中の子どもをさらわれたように思えたとも・・・。
流産の反動か分かりませんが、現在3人もお子さんがいるらしいです。
最後にホッとしたサンダーバードでした。