山にまつわる怖い・不思議な話(山怖まとめ)

山の怖い話、不思議な話をまとめています。

富士山に雪が積もり、筑波山には人が絶えないワケ

      2016/12/26

常陸国風土記より管理人による超訳

古老が言うには、むかし祖先の神様が、多くの神様が多くの神々の所を巡行なさって、駿河の国の富士山に到着したところで、とうとう日没になってしまい、 一晩の宿を頼みました。
この時、富士の神は答えて言うには
「今宵は『新穀の収穫祭』で家中こもって物忌をしています。
今日だけはなにとぞ恐縮ですが、家にお入れすることができないのです。」

それを聞いた祖霊神は、恨み泣き、罵って言いました。
「おまえの親ではないか。どうして親でも泊めようとしないのか。
おまえの住む山は、おまえの命の果てるまで、冬も夏も雪が降り霜がおり寒さが襲いかかり、人々が登らないので、食べ物を供えて祭ることもないであろう。」

祖霊神は、あらためて筑波山に登り、また宿を求めました。

この時、筑波山の神が答えて言うには
「今宵は新嘗の祭をしておりますが親神さまの仰せをお受けしないわけにはいきますまい。」と言いました。
そして飲食物を供えて、歓迎しました。

祖霊神はとても喜び、歌を歌って言いました。

愛しきかも我が胤(こ) たかきかも神宮(かむみや)
天地と並斉び 日月と共同(とも)に
人民集ひ賀(ほ)き 飲食冨豊(おしものゆたか)に
代々に絶ゆること無く 日に日に弥栄(いやさか)え
千秋万歳(ちあきよろづよ)に 遊楽窮(たのしびつき)じ

(※意味
愛しき我が子 高々と立つ筑波の神の社
天地と共に並び、日月と共に
人々がこの山に集い寿ぎ(ことほぎ)
食べ物の供え物豊かに
代々絶えることなく、日に日に豊かになり
千年万年の世まで、楽しみは尽きないであろう)

というわけで、富士山はいつも雪が降り次いで、人は登ることができなくなりました。
いっぽう筑波山のほうは、人々が登り行き集って歌い舞い、酒を飲み物を食べることが、今に至るまで絶えることがないそうな。

地方の説話には、その地域の山を他の山と比べて褒める話がたくさんあります。
この話は、常陸国地元の筑波山を富士山と比べ、褒めているお話です。

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出典:常陸国風土記