ある廃屋の裏の畑を「探検」していた時
2016/01/09
父は山奥に田圃を持っていた。
家から離れていたため、家族みんなでトラックに乗り、一日がかりで農作業。
夏休みには自分も連れて行かれた。
手伝いのないときには「探検」と称して
過疎で人気のなくなった集落をあちこちしていた。
その日は曇り空で蒸し暑い日だった。
初夏でもあり周囲は鳥のさえずりがやかましい。
ある廃屋の裏の畑を「探検」していた時のことだった。
畑といっても放置され、すでに雑草で埋まっている。
その一角に、それはあった。
まるで地面の一部が角のように天に向かって突き出ているようにも見えた。
大人より高かったから、高さ2メートル。直径は根元のほうで1メートルぐらいか。
小山のように盛り上がった「塚」のようなもの。
全体が幾重にも蔓草に覆われていた。
「何だろう。」
蔓草の間から観察すると、平たい小石がびっしりと積み上げてある。
そしてその小石が崩れた間から、奥に黒い柱のようなものが見えた。
よく見ると、柱の所々には四角い穴が掘ってあるし、字のような模様もある。
好奇心に駆られ、もっとよく見ようと蔓草に手をかけたその時。
異様な雰囲気に気が付いた。
まったく消えたわけではない。
足元で地虫が、ヂィーーーと鳴いている。それだけは聞こえる。
しかし、さっきまでの鳥のさえずりがどこからも聞こえなくなった。
まるで息を呑んでこちらを見つめているようにも思えた。
「まずい・・・」、そう感じて手を引っ込め、引き返そうとした瞬間。
後ろで、「チッ!」と舌打ちが聞こえた。
恐怖に駆られ、転げるようにして、家族のところまで走った。
それからそこには行っていない。
家族に話したが「さあ、何じゃろうなぁ。」、取り合ってくれなかった。
そんなものを気にしていては、この山村では暮らせない。
今では、そこの地域は無人となって、車も入り込めなくなったらしい。
「あれ」は、山に飲み込まれながら、次の「獲物」を待ち続けているのだろうか。
この先何百年も。