隣の村の親戚に行く山道の途中
2015/12/20
初夏の暑い日だったと思う。
隣の村の親戚に行く山道の途中だった。
トンネルを抜ける道路はあるけど、徒歩だとこちらを使うのだ。
峠を越えて少し下ったところに、湧き水を飲める場所がある。
そこで、手作りの小さなベンチに腰掛けて休んでいた
すると一人のお婆さんが現れた。
今となってはどんな格好か思い出せないが、普通の人だったように思う。
「あんたはどこに行くんかな?」「一人で大変じゃなぁ。」
とかいろいろ話しかけてきたように思う。
そのうち
「パンがあるけえ、ひとつ食べんさいや。」
と言ってアンパンを取り出し、差し出した。
自分は
(なんだアンパンか)と少しがっかりしたのと
おなかもすいていなかったので、いらないと断った。
すると、お婆さん、明るく振舞う感じで
「やっぱり、婆の出すもんじゃ食べとうなあよね。
(食べたくないよね)。」
小学生だった私は、一瞬答えに詰まって下を向いてしまった。
(もしかして家で、孫にでもそんなことを言われたのかなぁ。悪いことをしたかな。)
そんな思いが頭を駆け巡った。
(でも食べたくないしな、、、、)
思い悩んだ挙句、何とか言いつくろおうと思って顔を上げた。
田んぼの真ん中を貫くアスファルトの農道に立ち
前半分が束ねたダンボールのように潰れたボンネットを
呆然と見ていると
自転車降ろしましょう
丈治くんが少し早口で言った、
岩はセプターの鼻先のアスファルトの上で真っ二つに割れている
いったい何処から落ちてきた?
二台のマウンテンバイクをキャリアからはずしつつ考えていると
とにかく急ぎましょう
知り合って間もないが、丈治くんがこんなにも焦った様子なのを始めて見る
なんとか車外に出てからづっと
お姉さんに電話しているが
繋がらないみたいだ
急かされるまま
それぞれにサドルを着けて
丈治くんの後について走り出す
つうか廃車なんですけど僕の愛車…orz
弟たちを待つあいだ飯を炊き、握り飯を握った
一時間以上待っても来ない、手持ち無沙汰も手伝い
大量に作ってしまった上にまだ来ない
待つのに飽きてしまい取り敢えず森に向かうことにした
森の開けた場所を越えれば薇採りのポイントに着く、背負い子に括り付けた竹籠の中の握り飯が重く感じられる
しばらくすれば弟たちも追いついて来るだろう
そう考えると気分が軽くなった、頭上からの木漏れ日を楽しみながら歩き、そろそろ空き地に出ようかと言う辺りで
ゴォッ
と凄い音と共に疾風が吹いた
思わず前によろける、よろけながら空き地に出るとまた
ゴォッ
と疾風が吹く、背中を押される様に空き地の中央近くまでよろめき出ると何時の間に湧いたのか空が黒雲に覆われ辺りが暗くなっている、そして突然
みいぃっつうぅ!
どしゃぁっ!!
目の前に真っ赤な顔が降って来た、三メートルは有るだろう、その瞳は爛々と金色に輝きシャァッと大きく開けられた口の中には鋭く長い牙ばかりが生え
喉の奥には紅蓮の炎が渦巻いている
今まで見た中で一番恐ろしいです…orz
異様さに呑まれて
金縛りにあったかの様に体が硬直し動けなかったが
このままでは喰われる、そう思った瞬間
体が勝手に反応した、くるりと後ろを向き全力で走る
ひゅん
どしゃぁ!
地面が揺れる
追いかけて来ているようだが後ろを振り返っている余裕などない、とにかく逃げなくては
が、何かに背負い子を掴まれガクンと言う衝撃の後に体が引き戻され始めた
足を踏ん張りながら後ろを見ると
赤い顔から枯れ枝のような腕が生え、こちらに向かって幾本も伸びている
振り解こうともがいていると
姉ちゃん!背負い子捨てろぉ!!
弟が空き地と森の境目から叫んだ
我に帰り背負い子を捨て
全力で弟の所まで走る
せっかく握った握り飯が…orz
あの男がデジカメで撮影している
一体どんな神経をしているのか理解出来ない
撮影しながら
あっ!細かくわかれたよ
弟も黙って指を差す
顔面から伸びきった腕の後から体がついて来ると言う風に
ポコポコと小さいものが溢れ出てくる
ガリガリにやせ細り抜け落ちたのか頭髪は数える程しかない、それなのに腹だけは異様に膨らんでいる
その中でも一番大きな個体が竹篭の中から風呂敷を取り出し握り飯を他の個体に手渡している
餓鬼のように見えるがおかしな事をする
全ての個体が握り飯を食い始めた
ひとくち食べる毎に頭髪が増え肌につやが差してくる、有ろう事か衣服までか現れた
握り飯をくうほんの数秒間に餓鬼から人の子供に変化した
三十個も握っていたとはやっぱりつくりすぎだ…orz
一番大きな個体だった子供は何時の時代のものかボロボロの着物に縄の様に
ヨレてしまった帯を巻いている、像の刺繍のついたシャツに半ズボンそして運動靴の子供までいる
様々な時代の衣服を着た
子供達が眼前に集まって来た
おばちゃん有り難う、俺達腹が減ってお始祖さんの処に行けなかったんだ
でもこれでやっと行けるようになった
ほんとに有り難う
一番大きな子供が嬉しそうに言う
期限が来れば売れ残った握り飯を棄てる店など数え切れない程あると言うのに
この子供達はそんなものすら食べられず一体どの位の間森を彷徨っていたのか
ご飯だったらいくらでも食べさせてあげるからね
私はそう言って弟を振り返り
丈治、家のお櫃に残ってるご飯全部持ってきて
と言った、でも弟は無言で首を横に振り空き地を指差す
誰も居ない、どうせ成仏するならもっと食べてから行けば良かったのに
涙か止まらなくなった
お始祖さんて誰だかわからない、しかもおばさん…orz