正月の十五日の晩は、ケダモンが騒ぐ
2016/12/14
長野県下水内郡栄村屋敷の話
うちの方の古しい家だけど、勇さんて人が今いるが、そのジイチャンの孫ジイチャン(曾祖父)になるわけだけど、貞之助って人、それからその本家のトーチャン、茂左衛門の親のダイって人が、二人でもってアサヒノリューで泊った。
正月の十五日の晩だったと、クマとりに行って。
小さい犬だかったでも、ものすごく気の強い犬を連れてたんだ。
今まで寝ってた犬がグフングフン吠え出した。ナリは小屋の中へ入れて頭だけだしてさ、ものすごく吠える。
それで二人もこりゃどうもおかしいと、正月の十五日の晩というのは、ケダモンの騒ぐ晩てえんだが、どうもおっかないもんが出たらしい、ということで、火縄銃に弾詰めて、火口(火縄銃の発火装置)に火をつけて待ったところが、そのおっかないもんは出ない。
犬は気が狂ったみてえに吠えたてえんだ。それで貞之助って人が「おい ダイ ぶってみろ」ってことで、ダイがドーンとぶった。
そうしたところが犬はおとなしくなって寝た。
ところがまたいい加減の頃になるというと起きて吠えはじめる。
また鉄砲ぶつ、そうして一晩中吠えれば鉄砲ぶちぶち夜を明かしたてえんだな。
これはまあ百年も前の話だけれど、山は、天狗ってものがいたんだ。
小正月(1月15日)辺りは、山での天狗目撃情報が多いようです。
出典:志村俊司編『山と猟師と焼畑の谷』