父親を呪う
彼女がまだ幼い頃、父親が約束をすっぽかして登山に行ってしまったらしい。
癇癪を起こした彼女は父親を呪うことにした。
藁人形がほしかったが、手に入らなかったので、遊ばなくなった布人形に父親の
似顔絵を描いて代用品にした。
手や足に針を突き刺してひねり回していた時のことだ。
いきなり人形が、目の前でぺしゃりと潰れてしまった。
中身の綿が飛び出すような酷い有様で、遊び半分だった彼女は思わず泣き出した。
人形はそのままおもちゃ箱の底に隠してしまった。
数日後、帰宅した父は九死に一生を得たと興奮しながら話してくれた。
高い岩壁を登っていると突然、手足に激痛がして滑落してしまったという。
下の岩場に叩き付けられたのだが、不思議なことにかすり傷だけで済んだのだという。
一緒にいた仲間たちは、口々に奇跡だと言っていたそうだ。
彼女は人形のことを両親には話せなかった。
人形に描いた父の似顔絵を消すと、こっそり幼稚園の人形供養に出したという。
以来、彼女は人を意識して呪わないように注意しているのだそうだ。