ホーム > Part54 > キモトリ 2015/07/03 2015/07/06 334 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2011/04/25(月) 21:20:52.21 ID:4zKKwHzs0 [1/3回(PC)] 老人の話。 町外れの山に、かつて小さな火葬場があった。 彼はそこで働いていたらしい。 祭りの打ち上げで一緒になった際、そこでの話を色々聞かせてくれた。 「怖そうな現場ですね。とても私には務まりそうもないです」 そう言う私に、爺さんが答えて曰く。 「いや仕事といっても、実際は火の番くらいなもんだし難しくはない。 偉いさんから酒の差し入れもあったし、慣れたら別に怖くもないさ」 その台詞の後、思い出したようにポツリと付け加える。 「ただ時々キモトリが出おってな、あれは怖いというか不気味だった」 人を焼いていると偶に、周りの木々の中に変な小動物が出ることがあった。 それは膝を抱えた猿であったり、後ろ足で立ち上がった兎であったり、 枝上に丸くなった猫であったりした。 それらのどこが変かというと、皆一様に顔が無いのだという。 本来顔があるべき部位が、真っ黒に塗り潰されて見えるのだと。 番所から外へ出て確かめると何もいない。 しかし、小屋に帰るとやはり見える。 暗い森影の中から、こちらをじっと見ている。 「先達は、それをキモトリって呼んどった。 何かが獣ン振りして人の魂を狙っとるんだろう、そう聞かされたよ。 まぁ気持ち悪いだけで実害は無かったから、無視しとったけどな」 今はもうその火葬場も無くなっている。 「キモトリがどうなったかって? さてなァ、儂らと同じく山を下りたんかもしれないなァ」 爺さんはそう笑って、注がれた酒を飲み干した。 投票 0 1 コメントする Part54 妖怪火葬場雷鳥一号 出典:http://toki.2ch.net/test/read.cgi/occult/1302850900/
町外れの山に、かつて小さな火葬場があった。
彼はそこで働いていたらしい。
祭りの打ち上げで一緒になった際、そこでの話を色々聞かせてくれた。
「怖そうな現場ですね。とても私には務まりそうもないです」
そう言う私に、爺さんが答えて曰く。
「いや仕事といっても、実際は火の番くらいなもんだし難しくはない。
偉いさんから酒の差し入れもあったし、慣れたら別に怖くもないさ」
その台詞の後、思い出したようにポツリと付け加える。
「ただ時々キモトリが出おってな、あれは怖いというか不気味だった」
人を焼いていると偶に、周りの木々の中に変な小動物が出ることがあった。
それは膝を抱えた猿であったり、後ろ足で立ち上がった兎であったり、
枝上に丸くなった猫であったりした。
それらのどこが変かというと、皆一様に顔が無いのだという。
本来顔があるべき部位が、真っ黒に塗り潰されて見えるのだと。
番所から外へ出て確かめると何もいない。
しかし、小屋に帰るとやはり見える。
暗い森影の中から、こちらをじっと見ている。
「先達は、それをキモトリって呼んどった。
何かが獣ン振りして人の魂を狙っとるんだろう、そう聞かされたよ。
まぁ気持ち悪いだけで実害は無かったから、無視しとったけどな」
今はもうその火葬場も無くなっている。
「キモトリがどうなったかって?
さてなァ、儂らと同じく山を下りたんかもしれないなァ」
爺さんはそう笑って、注がれた酒を飲み干した。