目の前に見たこともない美人が立ってた
2016/03/04
わしのじいさまのじいさまが山の夜道を、
馬を引きながらタバコをぷかぷか葺きながら歩いておった。
じいさまは町へ定期的に野菜やらを売りにいっておってな、その帰り道じゃったんじゃ。
その晩、月は綺麗に見えるのに空気は何だか生ぬるかったそうな。
「すっかり遅くなっちしもうた…はよ帰りてぇのぅ」
それでなくともこの山には、いつの頃からか化生の物(化け物)が出るとの噂がある。
無理せず、町で一泊していけば良かった…とじいさまが考えていた矢先。
「これ、どうしたんじゃ」
急に馬が動かなくなってしもうたそうじゃ。
叩いても押しても引いてもダメで、まるでその先から一歩も進みたくないように
がんとして動かんかったそうな。
すると、急に肌寒い風が吹いて……気が付くと、目の前に見たこともない美人が立っておった。
「(たまげた…こんな夜更けに、若いおなごがどうしたんじゃろうか…)」
まるで金物の様にギラギラと光輝いておったんじゃ…。
「(こ、この娘はまさか、山に住む…!?)」
化生の物かもしれん。今にとって食われてしまう…と思っておったじいさまじゃが、
娘はじいさまが口に加えておったタバコを見るや、しげみの中に逃げてそれっきりじゃった。
「(た、助かったわい…ありゃあ、きっと蛇の化生じゃあ。
蛇は火が嫌いじゃけんのぅ…タバコの火が消える前に、はよ山を降りな!)」
こうしてじいさまは一命をとりとめた。
あとで峠の茶屋の婆様に聞いたところ、あれはじいさまの考え通り、山の主の大蛇だったんと。
あれに会って助かったもんは滅多におらん、お前さんは運がいい…とのことじゃあ。
お前も、夜道で美人におうた時は気を付けるんじゃで。タバコに火ぃつけてやり過ごすことじゃ…。
父方の祖父(故人)から聞いた話。