弟が東京の大学に進学することになった
2017/04/04
弟が東京の大学に進学することになった
どちらかと言えば抜けていて内心、馬鹿ではないかと心配していたが
勉強は別だったようだ
ここのところ
下宿先を探すだのなにやかにやで
父親と何回か上京していたが
いよいよ明日、この家を出ていってしまう
が、感傷に浸る間もなく
こんにちは~
と間の抜けた声が生け垣のあいだに立つ門のほうから聞こえてきた
森で良いように化かされていたあの男だ
弟が嬉しそうな顔をして玄関に迎えに出ていく
弟は東京の浅草にあるこの男の実家に下宿することになったとのこと、家の者で知らなかったのは私だけのようだ
しかも男の実家は三味線屋だそうだ
生き物の殺生にかかわる家の者だからあれほど執拗に化かされたのかと妙に納得した
弟の門出を祝うささやかだが心を込めた宴席に
この男がいることに苛立ちを覚えてきたときに弟が
そういえばコレを採りに行った帰りに昌志サンに会ったんだよね
とニコニコとたらの芽のてんぷらを頬張っている
あのとき顔中を糞だらけにしていた男が
いゃぁ、あの時は本当に助かったよ
と同じくてんぷらを頬張りながら答えた
続きます…orz
顔じゅうの糞をホースの水で洗い流されているあいだずっと
ニタニタ笑いながら森での出来事を
祖父に説明していたこの男もかなり抜けているのだろう
弟と気が合ったらしく
あれから後もメールをやりとりしていたらしい
東京に出ての不安は確かに減るだろう
それにしてもあの男の家に下宿することは無いのに…
そんな考え事をしていると
台所の窓からこんもりとした影に見えていた夜の森が明るくなった
無数の狐火が森の木々の間や空中を乱舞している
今までに見たこともない異常な数だ
茶の間に行き家の者達に報告しょうと振り返ると弟がいた
あいつらも別れを惜しんでくれてるのかなぁ
弟がいつになく神妙な顔で言う
洗いたてのたくあんから
微かに糠の匂いが漂うなか
しばらく弟と二人で台所から狐火を見ていた
集団で円を描いたり、稲妻の様にジグザグと動き回ったり
弟の言うように別れを惜しんでいるのだろうか
あれほど嫌だった青白い炎に少し親しみを感じた
あいつら他に行く処が無いんだよ
姉ちゃん頼んだよ
弟が寂しそうに言った
あんなもの頼まれても…orz