静岡県の山中で石工が石を切り出していたとき
2015/11/23
前回……ええと、≫398で雷鳥氏の書き込みに対し「石妖」という単語を持ち出しましたが、文章
見つけたので貼り付けときます。ご存知の方も多いでしょうが。
昔、豆州(静岡県)の山中で石工が石を切り出していたときのことである。昼休みに入ったので、
数人の石工はみな休息をしていた。そのときどこから現れたものか、1人の美しい女性が近づいて
きて石工に向かって言った。
「終日働いて、さぞおつかれでございましょう。私が按摩をしてさしあげましょう。」
そして、さっそく1人に按摩をしはじめたが、これがまたなんともいわれない心地よさであった。
あまりの心地よさに、寝入ってしまったほどである。すると、こんどはべつの1人に按摩をしはじめ、
これもよっぽど気持ちがよかったと見えて、すぐに眠ってしまった。このようにして、たちまち何人
もの人間が按摩をされては寝入ってしまった。このようすをじっとうかがっていた残りの1人は、
どうもこの女はただものじゃない、きっと妖怪にちがいないとばかりに、そっとこの場を立ち去った。
おりしも山道で狩人に会ったので、ことの始終を話すと、狩人もそれは怪しいと、2人でもといた
場所に引き返した。もどってみると、その怪しい女はいたが、2人を見ると逃げまわり、狩人はついに
この女を撃ってしまった。すると、女の姿は消え、代わりに石がくだけて散った。これはいよいよ
怪しいと、その場に行ってみると、やはり堅石(かたいし)が飛び散っているばかりであった。
これこそが〈石妖〉というべきものだったのである。眠っている人間を見ると、背骨のところに、
まるで石で按摩されたかのように、縦横に引っかき傷ができていた。 按摩された人たちはみな気絶
して大病の危険もあったが、家に帰って医薬を盛り、かろうじて助かったということである。
しかし、このあとも〈石妖〉はたびたび現れたという。
水木しげるの「妖怪大全」より。
石妖ってのはたいてい美女の姿をしているそうです。美女にマッサージしてもらえると思いきや
握撃……なんて嫌な奴なんだ。