呼ぶ声と忌み名
2015/07/10
 寄り合いの場で聞いた話。 
	 一人の若者が山で仕事をしている最中、どこからか自分の名を呼ばれた。 
 山で名を呼ばれても返事をするな、というのが村の言い伝えだったが、 
 とっさに「おーい!」と返事をしてしまった。 
 その日の夜、山の方から若者の名を呼ぶ声が村中に響き渡った。 
 村の誰もが聞き覚えのない、甲高い男の声。 
 心配した近所の者が若者の家を訪れたが、もぬけの殻だった。 
 以来、若者の消息は杳として知れず、 
 村では、本当の名ではなく「忌み名」を用いる習慣がしばらく続いたという。 
