鹿男
2015/09/28
彼がまだ幼かった頃、毎年夏になると友人の家族と山小屋に泊まっていたという。
ある日の夕方、彼の母親は森の中を歩いてくる奇妙な姿に気がついた。
雄鹿の頭を持つ男が、山小屋に向かって歩いてきていた。
慌てて彼女は子供と小屋にこもり、しっかりと戸締りをした。
鹿男は小屋のまわりを歩き回り、中の様子を窺っているようだった。
カーテンの隙間から盗み見る鹿男の白いシャツには、どす黒い染みがついていた。
どうやら彼は、鹿の頭部を切り取って自分の頭に被っているらしい。
その手には手斧のような物が握られていたそうだ。
しばらくして鹿男は森の中に去ったが、母子は腰が抜けたようになっていた。
直後に父が仲間と帰ってきたのでこのことを訴えると、ひどく驚いたという。
彼らは小屋にいたる道の上に、頭を切り取られた鹿の死体を見つけていたのだ。
その翌日、彼らは山小屋から引き上げた。
以来、その近くではキャンプをしないことにしたのだという。