天狗になりたかった山伏
炭焼き爺さんの昔話
ワシの釜から沢をいくつか越えた山は有名な御山じゃった。
山伏がいつでも修行してたわ。
ワシも何度か会ったことがあるが面白い連中じゃったわ。
中でも10年近く里に下りておらんちゅう奴がいてな、面白い奴じゃった。
何でも天狗のような神通力を身につける修行しとるらしい。
恐ろしく身が軽くて猿みたいに木に登ったり、ガレ場走り歩いていたわ。
奴が言うには、子供の頃天狗を見てからどうしても天狗になりたかったらしいわ。
最後に会ったときは崖の上に立っちょうてな、なんとかーってでかい声出してな、
ひょいと崖を飛び降りおった。
ワシはあわてて崖の下にまわったんじゃがな、なんも無かった。
よっぽど運が良くなけりゃ死んじまうような場所だったんじゃがのう。
落ちたような跡も、血の跡もなかったわ。
それっきり奴とは会っとらん。