飛猿
もうずっと前の話だが、村はずれの山に猿使いのお爺さんが住んでいた。
猿をまるで召使のように使いこなし、仕事やお使いをさせていたらしい。
誰からともなく、その家の者を猿使いと呼ぶようになったのだという。
その一族は、代々猿を使役していると伝えられていた。
知り合いがまだ子供の頃、父親と一緒にお爺さんを訪ねたことがあるという。
お爺さんは手土産の日本酒を受け取ると、猿にそれを渡して早口で何か伝えた。
少しすると屋敷の奥から、猿が熱燗につけた酒とつまみを持って来た。
親子で驚き感心していると、お爺さんはぶっきらぼうに言った。
これは飛猿といってうちの家に伝わる呪法みたいなもんだ。
良くねえことだ。
しばらくして、お爺さんは亡くなった。
いつも傍に控えていた猿は、いつの間にかいなくなっていた。
お爺さんは、山奥の無縁墓地に葬られた。
守をする人などいないはずなのに、墓はいつもきれいに掃除されていたという。
つい最近まで、命日になるとその墓に花とビワの実が奉げてあったそうだ。
知り合いがヒサルといっていただけで、本当はトビザルかヒエンという
呼びなのかもしれません。
猿の知能を上げる何かの術なのかも。
なんと言いますか…この話が本当にあったことだとすると、この猿の
その後を考えると落ち込んでしまう自分がいるのです。
猿にも戻れないし、かといって人間には当然なれません。
知能がついたのはいいが、他人を疑うだけの知能が果たしてあったのか。
いろいろ考えるとブルーになるので、よくできた作り話だなぁ、と
考えるようにしていますです。弱弱な私。