山人に連れて行かれた母
秋田県北秋田郡阿仁町。
明治中頃の話。鈴木つねさんが「私の母は、私が二十の時、山に茸とりに行ったまま、どうしたのかとうとう帰ってこなかった。
その日の午後にはすごい雷雨があったので、どこかに雨宿りしているのではなかろうかと、村の人達も総出で探してくれたし、私もその後何日も何日も山にはいり、母の名を呼びつづけて探したが、何の手掛りもなかった。
あっちのごみそ、こっちのいたこ、と聞き歩きもしたが、母は行方不明になってしまった。
この年になっても、まだ母の葬式もしないと思うと悲しくて…」と話をしてくれた。
高堰いしさんも、「この人の母と私の母とは同年で、私の母がまりつきする時、この人の母はこの人を横に寝かせて、縄をなっていたそうで、嫁に行けば遊ぶことも出来ないのだなあ、と不思議でならなかった、と話を聞いたものだった。どうして帰ってこなかったのか、村の人達は森吉山の山人に連れて行かれたのだ、と噂したそうです。」
出典:。今村義孝・今村泰子編『秋田むがしこ』第二集(未来社)