写真家が、日原川の奥に釣りに行った時
2016/02/03
釣りに行った時の話。
深夜に着いて、林道の奥に四駆車を停めて朝を待つことにした。
早朝から釣りを始めるつもりだったが、何故かいつものように
寝着けない。
暫く眠気を催した深夜、車の近くを誰かが歩いている音がした。
〝ザク、ザク、ザク…〟
昵っと聞耳を立てていたが、不審な足音は車の周りをずっと
歩き回り続けているようだった。
写真家は奥多摩に生息する動植物の写真を撮っていたので、
ある程度生き物に触れる機会は多い。
「鹿かも知れない。しかし、道に迷った登山者だったら…」
妙な寒気も感じ、写真家は寝るどころではない。
それから長い間、足音は車の周囲に積もった秋の落ち葉を
踏み鳴らしていたが、急に足音が止んだ。
「あれ…?」
益々訝しく思った写真家は、暫く迷った末、とうとう車外に
出て確認する事にした。
ドアを開けると山の冷気が鼻孔を突く。
車の周りは漆黒の闇。
「何だ誰も居ないじゃないか…」
念のため足元を確認したが、野生動物の足跡らしき物はない。
おかしいな、確かに誰か歩いていたのに…。
日原の奥では、今も姿の無い足音を聞く釣り人がいるらしい。