大きな廃病院に肝試しに行こうとしたら
彼の住む山間の町には、かなり大きな廃病院があったのだそうだ。
戦前に結核患者用のサナトリウムとして利用されていたという。
肝試しに行かないかという私たちの提案に、彼はこんな話をしてくれた。
「これは都市伝説みたいなものかもしれませんが・・・。一応耳に入れておきます。
サナトリウムには人望のある若い医師がいて、患者やその家族のカウンセリング
みたいなこともしていたらしいんです。
そのうちにどんどんエスカレートして、催眠療法の真似事にも手を出したって
聞いています。」
「それがある時、入院患者が一度に三人も自殺したんです。
ええ、その医師の催眠療法を受けた患者だったらしいです。
しばらくして警察が大挙して乗り込んできました。
漏れてきた噂では、例の催眠療法を受けた患者さん、退院されてから、皆が家族
と無理心中したというんですよ。十人近くいたということなんですが・・・」
「ここからがはっきりしなくなるんですが、どうも催眠に使った部屋に何かあって、
それが問題だったとか・・・。
鑑識が一人自殺してから捜査は終了し、サナトリウムは閉鎖されました。
問題の医師がどう処分されたのか、そこはまったく不明です。
まあ、戦争直前の時節だったらしいですから・・・」
それでも行ってみます? 彼はそう聞いたが、皆行く気が失くなっていた。
現在、件の廃病院は既に崩れ果て、青空駐車場にされていると聞く。