送り犬
彼がまだ幼い頃、お祖父さんと二人で夏祭りに出かけた時のこと。
祭りは山一つ向こうの神社でおこなわれており、帰りは山を突っ切って近道をした。
夜の暗い山道を歩いている間、彼は後ろが気になって仕方がなかった。
何かが二人の後をついてくるような気配がしたのだ。
やがて山道が終わる頃、お祖父さんは足を止めて振り返った。
手提げ袋からタコ焼きを一ケース取り出し、地面の上に並べて置く。
お陰さまで今日も無事帰り着くことができました。ありがとう。
そう言ってお祖父さんは一礼し、彼を促すと里道を歩き出した。
お祖父さんが言うには、その山には昔から送り犬が出るのだそうだ。
暗い夜道を歩いている人の後ろからついて来て、事故に合わないよう、他の獣に襲わ
れないように、守ってくれるのだという。
里の者は送り犬に感謝して、山道の終わりで何か食べ物を差し出す慣わしなのだと。
しかし、彼はその時、タコ焼きに口をつける送り犬の姿を盗み見てしまったらしい。
実のところ犬じゃなかったと思います。二本足で歩いていましたから。
人でもなかった。身体には手が見えませんでした。
彼が見た灰色の影は、一体何だったのだろう。
二本足で歩き腕がと聞いて、地面を歩くのに適した発達した脚を持つ
巨大な鳥のような生物が浮かんだ。
昔の人は山谷に住む鳥とも人ともつかない生物を一名に天狗、
一名に送り狗と呼んだのだろうか
などと妄想してみたり