神様が通った田
彼は数年前に脱サラし、山村に移り住んで稲作農にいそしんでいる。
その最初の年のことだ。
そろそろ苗代の準備をしようかという時期だった。
朝、彼が自分の田圃に行くと、田の中に奇妙な物を見つけたという。
足跡だった。
しかし、おかしなことに、その足跡は真っ直ぐ一列に連なっていたのだ。
まるで、一本足の何かが土の上を駆け抜けて行ったかのように。
奇妙な足跡は山の中から彼の田圃へ飛び入り、そのまま横切って、再び山の中へ
と消えて去っていた。
しげしげと足跡を眺めていると、近所の小父さんが通りがかった。
足跡に気がついて、彼の肩を叩く。
「神様が通った田は豊作になるというが、新参者の所を通るとはね。
お前さん方は気にかけて貰っているよ。良かったじゃないか」
どう反応していいか分からず、はぁそうなんですか、と彼は返した。
小父さんの予言通り、一年目にして彼の田圃は豊作であった。
「会社での人間関係が嫌になってここに来たんだけどね。
付かず離れず見守ってくれている存在がいるっていうのも、存外悪くない。
子供のアレルギーも治ったしね」
そう言う彼は、急速に村に馴染んでいる。