素振りを終えて帰ろうとした瞬間どこからか視線を感じた
2017/04/04
田舎のさらに山の上、新しく出来た団地に住んでいた頃。一番近くのコンビニまで徒歩20分という立地条件で、
四方八方は山。団地の裏がそのまま山で、山菜採りの場所には全く不自由しないという、
そんな所に住んでいました。
そのころ、剣術をかじっていた私は、夜、眠れないときなどは剣道着と袴に着替えて、よく、裏山に素振りに
出かけていたものでした。(満月の晩に道着に袴、模擬刀で素振りしていて、お化けと間違われ、
団地の七不思議になってしまったことはまた別のお話です)
ある晩、素振りを終えて、帰ろうとした瞬間、どこからか視線を感じます。私がいた裏山の土手、20メートルほど
のぼった地点でしょうか?さらに、藪が動く音。野犬か山猫か。まさか熊や猪は勘弁・・・と、
冷や汗を流しつつ、腰の引けた情けない体勢で、腰に差した模造刀のツカに手をかけながらじりじりと後退。
よく考えて、はたか見たらこちらのほうが不審人物そのものと気付いて、相手が万が一寝近所の人である
可能性にも思い当たり、震えないように注意して声をかけました。
「・・・夜中に失礼致しました。どなたかいらっしゃるんですか?」
沈黙。視線も感じなくなりました。
やはり、動物か何かだったのかと、掌の汗を袴の腿にこすりつけ、袴の裾をもちあげて、土手を上ってみました。
と、そこには、ちょっと予想していなかったものがありました。
風雨にさらされた、縦横40㎝ほどの、小さなお社のようなものが、ちんまりとそこにありました。
杯のようなものと、青く錆をふいた10円硬貨がいくつか。言ってはなんですが、住宅地の裏手とはいえ、
誰も通りがからない、わざわざ土手の上まで見に来なければわからない場所にありました。
そこで私は怖いとは何故か思わずに、邪魔をして申し訳ないという気持ちになり、
「お騒がせして、申し訳ありませんでした。」とお社にお辞儀をして、土手を降りていきました。
背後で、小枝が折れるような音が、一度だけしました。
あとで聞いたら、昔、集落がそこにあった時代の、道祖神のようなものだったそうです。
小ネタで失礼しました。