境内中の木という木に、履物の類が打ち付けてあった
2015/12/29
彼の実家の近くに小さな山があり、そこには小さな神社がある。
今にも森に埋もれそうな寂れた神社なのだが、なぜか礼拝客は意外と多い様子。
先日里帰りした折にふと思い出し、何の気なしに足を伸ばしてみた。
一歩境内に足を踏み入れギョッとした。
境内中の木という木に、履物の類が打ち付けてあったのだ。
それこそ数え切れないほどの、靴やサンダルといった履物が。
異様な雰囲気に堪らず、逃げるようにして即帰ったという。
後でその手のことに詳しい人に聞いてみたのだが、その神社は俗に足止め神社と
呼ばれ、ある筋ではかなり有名なのだそうだ。
そこで履物を使って呪をかけると、その履物の主は旅行に出たり引っ越したりと
いった行動が取れなくなってしまう――文字通りの足止めだ。
彼が見た中には、幼子の靴も数多あったらしい。
一体どんな事情があったのか。考えているうち鬱になったという。
「現代でもああいうことを信じてすがる人が、あんなに大勢いるんだな」
彼は最後にぽつりとつぶやいた。