背後からの拍手
二人組で山へ入った時のこと。
お互いに離れた所で下草刈りをしていたのだが、
しばらくすると、不意に背後から拍手の音が聞こえた。
パンパンパンパンパンパンパンパン…
相方の仕業だと思い振り返ったが、どこにも人の姿はない。
不審に思いつつ作業を再開すると、また同じ音が聞こえてくる。
パンパンパンパンパンパンパンパン…
そんなことが数度繰り返されるとさすがに気味が悪くなり、
作業を中断して相方を探すことにした。
だが、姿が見当たらない。大声で呼ばわったが返事もない。
周囲の山林を探したが、相方の姿はどこにもなかった。
(さては勝手に山を下りたのか?)
そう考えて相方の家へ向かった。
家に着くと、ちょっとした騒動になっていた。
話を聞くと、山中の工事現場で作業員が相方を見つけた、とのこと。
そのまま現場に向かった。
到着したのは、相方と山に入ってから2時間ほどが経過した頃だった。
着いてみると、そこはさっき草刈りをしていた山中から尾根を三つほど越えた谷底だった。
歩けば、ゆうに数時間は掛かる場所。
そんな所で、相方は自分の内股を草刈り用の鎌で切り裂いて失血死していた。
その谷はすっかり涸れ上がって一筋の水も流れていない。
にも関わらず、遺体の周囲には血液がほとんど残されていなかった。